ジョン・ロウに会ったときの話
香港在住で航空会社に勤務している僕は、世界中を飛び回っている。
アジア、アメリカ、南アフリカ、中東、ヨーロッパ、、、行くとこは毎月様々。
そんなある月の僕のシフトにマンチェスターが入った。
ダーツといえばイギリス。
そこでまず僕が思ったこと...
「ジョン・ロウに会ってみたい」
僕はそんなバカな妄想をしていた。
「ジョン・ロウ」はどこに住んでるんやロウ」
と思った僕はようつべであるジョン・ロウのインタビュー動画を見つける。
そのインタビュー動画の内容はカイル・アンダーソンとジョン・ロウの2人が話している動画だった。
インタビュアーが「今日はジョンの地元、チェスターフィールドにあるヴィクトリアに来ています」
と言うてることに気付いた。
そしてチェスターフィールドをグーグルマップで検索してみると...
マンチェスターの隣街ではないか!
「いける!」と思った僕は行くことを決心する。
この時点では「ジョン・ロウはいるはずがないからそのパブだけでも動画にしよう」と思っていた。
現役を引退してるジョン・ロウ(73歳)だが、彼はまだまだダーツイベント、大会、エキシビションなどでヨーロッパを中心に世界中でダーツをしている。
「会えるはずがないけど彼のダーツパブに行ってみよう」
さぁパブに着きました。 まだ開店して間もない夕方。
そこはまぁなんとクラシックなダーツパブ...
何年前からあるんやロウと思わせる素朴な雰囲気が漂う。
ダーツボードはユニコーンのエクリプスが綺麗にかかってる。
全体がウッディで茶色く、店内には音楽なんかかかってない。
イギリスのおじさん達の大きな声の会話がBGMだ。
バーカウンターにオーナーらしき人を発見した。
その人は日本でいう宮崎駿のような、ちょっと頑固そうなおじさんという印象だ。
僕「すみません、ここはジョン・ロウがよく来るダーツパブですか?」
オーナー「そうだ、私はジョンの昔からの親友だ。彼の結婚式もオレがベストマンだったんだ。
ボビー・ジョージ、フィル・テイラー、キース・デラーもここのイベントでよく来るんだ。
エリック・ブリストウは本当に面白い男だった、彼も頻繁に来ていたんだ、奴は本当に身長が高かったなぁ」
酒でやけたドス低い声でそういい放ったオーナー。
話すと彼はジョン・ロウとかなり親密な仲なことがわかった。
僕「今晩ジョンはここに来ますか?」
「ここ最近来てないな、もう最後に来たのは数ヶ月前だ。」
僕「そうですか、だってジョンは忙しいでしょうし...彼とここで会えることは想定してないですが、“ジョン・ロウの地元のダーツパブ”ということで動画を撮ってもいいですか?」
オーナー「もちろん、撮影は自由にしてくれて結構だ。 オレがジョンに連絡してここに連れてきたいけど、ファン1人のためにジョンをここに呼び出すことなんでできない。ジョンのプライベートはこのオレでも邪魔できないんだ。 わかってくれよな」
平均年齢50-60歳のイギリス人常連客で賑わうパブで、頑固なイギリスの宮崎駿にそう言われた。
ビールの注文で忙しいバーカウンターから小さいアジア人の少年はポツンと弾き出された。
僕はキルケニーを飲みながらダーツを取り出し投げ始めた。
パブのメインルームのど真ん中にハードボードが一面かかっていて、スローラインの後ろにはビールをガバガバ飲む観客席でいっぱいだ。
僕がダーツを投げ始めると「ヘイ!ポールリム!」と大きい声で呼ばれた。
イギリスでもダーツに興味がある人はみんな知ってるポール・リム。
アジア人がイギリスでダーツを投げてると、ポール・リムにしか見えないのだろう。
僕はヨーロッパでダーツパブで投げてると必ずといってもいいくらいまずポールと呼ばれる。(特に僕の顔はポール寄りの顔だろう)
僕は「ポールリム!」と呼ばれると凄く嬉しい。なぜかというとそこから会話も生まれるし、いろんな人と話す機会が多くなるからだ。
僕は決まって「ポールリム!」と呼ばれたら「ポールリムイズマイファーザー」と返す。
ジョークはジョークで返すとすぐうちとけることができる。
「オレと勝負しろ!」とマイダーツを持った50代のおじさんに声をかけられ、いきなりゲームオン。
マイダーツをダーツパブに持ってきているおじさんはすごく珍しい。
先程から「ダーツパブ」と言ってるが、本当は「パブ」に「ダーツボード」が掛かってるだけで、日本のようなダーツバーではなく、本格的に試合にでていたり、何時間も投げる飲み客はほとんどいないと感じる。
そんな中マイダーツをもっていたおじさんとダーツを投げれる機会が僕は嬉しかったし気合いが入った。
そのおじさんは毎週リーグにでている程度で週に一回ダーツを投げるという。
501が始まった。
その日僕が持ってきたダーツはジョン・ロウ、ゴールド ピュアリスト21g。 ジョン・ロウのホームパブでこのジョン・ロウのゴールデンダーツを輝かせながらダーツをすることが目的だった。
連続してきまる100,140,100...
ジョンの聖地でゴールデンに輝くダーツが気持ちよくトリプルに吸い込まれていく。
「おい、あいつをみろ、いいダーツをしてるじゃないか」
先程までダーツボードに全く目をむけてなかったビールおじさん客達が一気に僕らの試合を観始める。
投げながら僕はみんなが僕らの試合を観出すことに気付かぬフリをしながらさらにゲームに集中しだす。
投げる前に指を「ぺろっ」としたり、3本目は一歩右から投げたり、ビールを飲みながらチラっと観客を見たり。
気がつけば自分はもうこのダーツパブの「キングオブダーツ」と言わんばかりの胸の張り具合で
投げているではないか。
インブルフィニッシュを決めると
「yeah!!!!!!」と湧く歓声。
180を決めれば後ろから「oooonnneehhuunndredeeeiightyyyyy!!!」とPDCのコーラーの真似をする叫び。
「あのポールリムモドキ、なかなか投げれるじゃねねか」と言わんばかりに次々と酒に寄ったブリテッシュオヤジ達がビール片手に「次はオレと勝負しろ!」とチャレンジしてくる。
ちょっとしたチャレマみたいになっていた。
店内は完全に「あのポール・リムモドキをだれか倒せ!」の流れになっていた。
たしなむ程度しかダーツをしない酔っ払いのおじさん達を相手に僕は勝ち続けた。
マッチが続くにつれ「ワンモアビア!!」 とあちらこちらで止まらないビールの注文。
ガハガハ笑いながらダーツとビールで店内はこれまでにない大盛り上がり。
「ビール飲むか!?ヘイマスター! コイツにビールを!」
僕のビールトークンは何枚も溜まっていった。
そしてビールを注文しに頑固そうな宮崎駿(オーナー)のもとへ。
オーナー「お前は最高に楽しいやつだ。 みんなお前とダーツをしてすごくいい時間を過ごしてる」
僕「ありがとうござます、おかげ様でビール飲みながらみんなとダーツができて最高に楽しいです」
オーナー「よし、ジョンに会わしてやる。 明日ここにきたら必ずジョン・ロウに会わしてやる。
俺からジョンにお前のことを話しておくから明日来るんだぞ」
僕は何かのオーディションに合格した気分だった。
そして僕はジョン・ロウに出会った。
意外なことに、ジョンと初めて会った僕は全く緊張してなかった。
昨日もここで同じおじさん達とずっと何時間もいたのもあって完全に僕のオーラがこのダーツパブと一体化していたのだ。
そんなダーツパブに何十年も前から通い続けてるジョン・ロウ。
店にいる全員がオレンジ色のような暖かいオーラに包まれていて、ジョン・ロウが特別輝いてるというよりはみんなと一体化していたのだ。
僕が違う惑星に住み始めてピッコロみたいな触角が頭から生え出すように、その惑星の人々にはその触角があって、気がつけばみんながファミリーだということに気付くように。
昔日本に行ったときのことを語りだすジョン。
本当に日本が好きなようで動画では収まりきらないほどの日本での思い出話しを語ってくれた。
昔ユニコーン の「メイン・イン・ブラックツアー」で日本に来たとき、日本ダーツ関係者の方々達の名前も出して「本当にいい人達ばかりだった」と語ったジョン。
かと思えば「パチンコが最高に楽しかった」という話など、滑らない話も止まらないジョン。
カメラを回し出すと「昔お前に貸した2千円はどこだ?」とクラシックなブリティッシュジョークを決めるジョン。
「レジェンドオブダーツ」なジョン・ロウなのに、このダーツパブでオーラが一体化した状態で同じ空間にいるとそのすごさを忘れてしまうほどナチュラルなジェントルマンだった。
僕はジョンと出会ったときのことを今でも昨日のことかのように思いだす。
それはまるでおとぎ話のような思い出だった。
それが僕のジョン・ロウに出会ったときのお話でした。
それではどうぞご覧ください
「ジョン・ロウとダーツした」